今回は、当ブログに寄せられた相談者からの事例を取り上げます。
【相談事例】
東京近郊に自宅をお持ちの山田さんは、四国・香川県にある実家を今から2年前に父親から相続しました。
昨年、その実家を売却し利益が出たことから、居住用の3,000万円控除を検討していました。
相談を受けた当ブログは、特別控除を受けられると判断しました。
山田さんのケースは、かなり珍しい事例と思われました。
しかし、3,000万円控除を考えるうえで、避けては通れない「主たる居住用とは?」を改めて考えさせられる事例であり、その意味で皆様の参考になればとの思いから、あえて山田さんのケースを取り上げてみることにしました。
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住まいが2軒ある場合とは?
2軒といっても、別荘や建て替え期間中だけの仮住まいでは、特例の対象になりませんし、議論になりません。
ということは、住まいが2軒ある場合とは、
- 転勤に伴い「単身赴任先で取得した住まい」
- 「それまでの住まい」と「新たに取得した住まい」
- 「それまでの住まい」と「相続した実家」
くらいしか考えられません。
ちなみに、山田さんのケースは③でした。
転勤に伴い「単身赴任先で取得した住まい」
それでは、①から順番に見ていきます。
勤務先から「辞令」という1枚の紙をもらったため、住んで間もない自宅に妻や子供たちを残し、後ろ髪をひかれる思いで単身赴任を余儀なくされた方は、かなりの人数になることでしょう。
もっとも、多くの方は社宅や借り上げ住宅に住まわれ、新たに住まいを取得することは少ないかもと思われます。
しかし、赴任先で自宅を購入したことにより、自宅(持ち家)が2か所になったケースでは、主として居住の用に供していると認められる一つの家屋のみが特別控除の対象になることを注意書きしています。
仮に、家族が引き続き住んでいる自宅が「東京」、単身赴任先の自宅が「大阪」とします。
国税内部の取り扱いである「通達」では、「東京」の譲渡で3,000万円控除を容認しています。(租税特別措置法通達31の3ー2)
その理由は、単身赴任が解消したときには、妻子が待つ「東京」に戻って生活するであろうからというものです。
この取り扱いでは「大阪」の家屋が所有家屋かどうかを問いません。
その結果、「大阪」が所有家屋であれば、自宅が2軒になります。
その場合には、どちらか一か所のみですとされ、同時に2か所は認められません。
【出典】
措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》関係
「それまでの住まい」と「新たに取得した住まい」
自宅を建て替えた、あるいは住み替えたケース。
結局は、建て替え前の家屋も特別控除の対象になります。
これは、比較的事例が多いと思います。
仮に、それまでの住まいが「東京」、新たに取得した住まいが「千葉」だった場合。
先程の取り扱い通達(租税特別措置法通達)の31の3ー9では、どれがメインの家屋かの判定時期を定めています。
特別控除の対象は、所有者にとっての主たる居住用と認められる一つの家屋であすが、それはいつの時点で判定するのか。
⑴譲渡の時に住んでいる家屋は、譲渡の時に判定する。
⑵譲渡の時に住んでいない場合は、住まなくなった時に判定する。
さらに、⑵により主たる一つの家屋と判定された場合には、譲渡の時に他に住んでいる家屋を所有していても、⑵の家屋について特例を認めています。
【出典】
措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》関係
「それまでの住まい」と「相続した実家」
今回取り上げた山田さんの事例がこれです。
【事例】
山田さんは、東京近郊に自宅をお持ちで家族と暮らしていました。
そして、今からちょうど10年前、両親の介護をするため家族を残し単身で、四国・香川県にある実家に転居しました。山田さんは、四国に転居する前の年に、定年で退職していました。
四国の実家は、いわゆる本家でした。
このため、山田さんには年老いた両親の面倒を見ることだけでなく、後継ぎたる長男の役割でもあるとの思いがありました。
そこで、実家近くで再就職するとともに、町内会活動などにも積極的に関わり、地元に暮らす人よりも地元民に徹しました。
妻子の待つ東京近郊の自宅には、一度も帰らない年があったほどでした。
両親の介護を始めてから8年目の一昨年、相次いで両親とも亡くなられて実家を相続しました。
翌年、両親の介護という役割を終えたため、山田さんは実家を売りに出したそうです。
すると、運よく買い手が見つかり、その年の秋に実家を売却することになりました。
実家の売却後、山田さんは妻子の待つ東京近郊の自宅に戻った、とのことでした。
このケースの場合、前の2つのケースと同じく、
所有者にとっての主たる居住用と認められる一つの家屋
が特別控除の対象になります。
先程と同じ取り扱い通達(租税特別措置法通達31の3ー9)で、
⑴譲渡の時に住んでいる家屋は、譲渡の時に判定する。
⑵譲渡の時に住んでいない場合は、住まなくなった時に判定する。
山田さんは、売却時も住んでいましたから、⑴の扱いです。
売却時に、妻子が住む自宅と、相続した自宅。
どちらか一つの家屋しか特別控除の対象になりませんが、はたして四国の実家がメインと考えられました。
【出典】
措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》関係
まとめ
実は、山田さんにも申し上げました。
3,000万円の特別控除は〇か×しかありません。
この影響は、納税額でかなりの金額になります。
山田さんのケースは、それほど多くはないものと思われます。
しかし、同様の事例はもちろん、居住用の家屋の譲渡で3,000万円控除をお考えの皆様にとりまして、少しでも参考になれば幸いです。
今後も、相談事例も取り上げていきます。
なお、お気付きの点やお困りのことなどがございましたら、遠慮なく問い合わせてください。
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