今回は、譲渡所得の特例を取り上げます。
特例の名前は、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」です。
これは、事業用の買換えで、譲渡所得の課税を将来に繰延べるものです。
しかし、必ずしも節税にはなりません。
そのカラクリは、
- 繰延べ割合が100%ではない
- 翌年以降、分割納税になる
- すぐ売ったら短期譲渡(多額の納税)
したがって、私は個人的にはお勧めしません。
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特例の概要
事業用に使っている資産を譲渡し、その代金で新たに事業に使う資産を買います。
ポイントの1つは、譲渡する資産と買換える資産の組み合わせが決められていること。
この組み合わせは、現状では4種類しかありません。
以前は多くの組み合わせがありましたが、税制の改正(※)で、現存するのは以下の4つだけになりました。
- 航空機騒音障害区域内・全ての事業 ➡ 区域外(農林業以外)
- 既成市街地等(東京、大阪、名古屋)内での買換え・全ての事業
- 1月1日で10年超の国内の土地建物などの買換え・全ての事業
- 日本の船舶(養殖以外)で、建造が平成22年以前 ➡ 建造後事業に供してないものなど
この中で、例えば、札幌市の土地建物なら、③しかありません。
※租税特別措置法という法律で、期間限定で定められた特例です。
現在の特例の適用期間は、令和8年12月31日までです。
★特例の条件など
A 事業の範囲に事業に準じるものが含まれる
B 譲渡や買換えの取得では、金銭を伴わない贈与、交換、出資、代物弁済や、収用に伴うものが除かれる
C 買換え土地は、面積5倍まで
D 買換えは、原則譲渡の前後3年間
E 繰延べ割合は、原則80%
(ケースにより60~90%)
したがって、買換え資産の償却費は引き継がれた取得費などを基に計算
F 譲渡の翌年3月15日までに申告
G 買換え資産の取得時期は引き継ぎなし
したがって、約5年以内に譲渡すると、短期譲渡の税率、39.63%
繰延べ割合が100%ではない
例えば、譲渡金額が3,000万円、買換え金額も3,000万円なら、手元に譲渡代金が残りません。そして、仲介料などの諸経費は持ち出しです。
◎納税が発生
それでも、譲渡金額の20%に対する税金が発生します。
※繰延べ割合が80%場合。
◎分割納税
加えて、買換え資産の償却費は、引き継がれた取得費などを基に計算するほか、いわゆる特別償却の適用がありません。
つまり、買換え後の減価償却費が極端に少なくなるため、毎年分割で譲渡の税額を納付することになります。他の特例のような非課税でもなければ、特別控除でもありません。
◎買換え資産の譲渡では
その後買換え資産を譲渡した場合には、引き継がれた取得費で計算します。
例えば、3,000万円 ➡ 3,000万円でも、実際の買換え金額3,000万円を取得費にできません。
所得金額は、国保の保険料に直結します。
すぐ売却で短期譲渡・多額の納税
買い換えた資産の取得日は、実際の取得の日になります。
つまり、譲渡した資産の取得の日を引き継ぎません。
このため、所有期間が1月1日で5年以下なら、短期譲渡所得になります。
税率は、
長期20.315% ➡ 短期39.63%と倍増。
まとめ
事業用の資産を譲渡し、新たに取得した資産を事業に供した場合の特例を取り上げました。
この特例は、概要などで書いたとおり、節税とは真逆の結果になる恐れがあります。
買換え特例を使わなかったら長期の20.315%で済んだ筈なのに、買換え後の分割納税+短期の39.63%の所得税住民税。
言い換えれば、踏んだり蹴ったりの危険性があることを強調しておきます。
つまり、この特例に詳しい税理士(専門家)と十分に検討されることが極めて重要です。
このブログが、少しでも参考になれば幸いです。
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